ご参加下さった皆さま、ありがとうございました。ご協力に感謝致します。
◆参加者:11人
◆ドネーション額:30000円(第31回種を蒔く人のお話しを聴く会のドネーションと合わせて)
国連UNHCR協会様の事業にご活用いただきます。
◆参加者のお声
・デンマークの先行事例に学び、エネルギーのことを考え、自分自身の日常生活でできることについて考えました。多くの情報をわかりやすく整理して伝えて下さり、ありがとうございました。
・身近に感じている気候変動やエネルギー問題ですら知らない事が沢山ある事に気付かされました。いつもいろいろ教えて頂きありがとうございます。これからも本当の事を知って行動し、身近な人にも伝えていきたいと思います。
・阿蘇山の山麓や、釧路湿原、奈良の古墳の周りにも、大量の太陽光パネルが設置されている写真や動画をよく見かけます。太陽光パネルには有害な物質も使われており、20~30年後に安全に無害に廃棄する方法が確立されていないのになぜ?環境破壊してまでも突き進んでいるのはなぜ?と、ずっと疑問に思っていました。先生のお話をお聞きして、ますます日本のエネルギー政策に疑問を持ってしまいました。日本には有能な方々がたくさんおられるはずなのに、どうして「そうじゃない!」という方向に舵を切り続けるのかが、本当に疑問です。
・岩崎先生の多角的な視点からのお話は、いつも新たな気づきや学びを与えてくださいます。今回のトピックはエネルギーで、化石燃料や原子力から脱却し、全面的に再生可能エネルギーにシフトするというデンマークの政治的決断、先行理念、市民参加で意識向上と起業家精神を促進する政策に感銘を受け、日本や他の国も追従する事が出来たらと切に思いました。
●SDGs勉強会
プロジェクトリーダー:岩﨑裕保
種を蒔く#588 2025年1月4日
岩﨑裕保からあなたへ
SDGsが始まって10年がたち、残すところ5年になってしまいました。目標達成はできるのでしょうか・・・もちろんこの15年で済ませてしまう活動ではなく、これからもずっとそしていっそうしっかりと取り組んでいかなければなりません。
そこでまず、SDGs報告書2024年の中で特に気になるところを簡単に紹介します。
■高所得国と低所得国の間のSDGs達成の格差がいっそう拡大し、全体的に貧困と飢餓が悪化、日本の達成指数は僅かに改善(日本の順位は23年の21位から24年は19位に)
■2020年以降、世界で最も裕福な5人の富豪の資産は2倍以上になっているが、世界の約50億人の富は減少している
■世界で最も裕福な1%の富裕層は、世界の金融資産の43%を所有している。下位50%の資産は全体の2%
■世界で最も影響力のある大企業1,600社以上のうち、労働者に生活賃金(労働者自身と家族が医療費や教育費も含めたまともな生活水準で暮らせる十分な賃金)を支払っているのはわずか0.4%である
■最下位の国々の大半は、紛争が続いているか、紛争の深刻な影響が及んでいる。また戦争や紛争にかかわっている国は順位を落としている:米国(39位→46位)、ロシア(49位→56位)、中国(56位→68位)
■貧困は前年の報告書ではラテンアメリカ・カリブ海地域だけが悪化していたが、今年は数千万人の難民・避難民を生んでいるウクライナやパレスチナ、シリアなどが含まれる東ヨーロッパ・中央アジアと中東・北アフリカが加わった
■飢餓についても、全体的に悪化している。昨年も今年も全ての地域やグループで状況は「深刻な課題が残る」か「明確な課題が残る」である
■日本は
・コロナ前の状況に戻ったがSDGs達成の見込みは立たず(2019年から2024年までの5年間の指数の伸びは僅か1.0点。2030年までの残り6年間で30.1点上昇することは不可能。)
・ゴール4の教育とゴール9の産業はこれまで「SDGs達成」だったが今年は教育が一段階下がって「課題が残る」となった。国際学習到達度調査(PISA)の2022年度の結果に加えて、日本の教育には学校教育における「質」と外国にルーツを 持つ子どもの排除、そして成人の非識字という問題もある。また、自律学習を行う自信があるのはOECD内で37位中34位、ICTの利用頻度はOECDの平均を上回る5位だが、日本の調査は通信制や不登校などを含まず必ずしもトータルなものとなっていない
・ゴール2の飢餓の傾向が、前年の停滞から後退に変わった。食料の持続可能性を示す「人間栄養段階」の改善の見込みが薄い。1ヘクタール当たりの穀物の生産量: 前年は6.8トンで今年は6.3トンと7.4%も減少
メインテーマのデンマークのエネルギー事情は、一言でいえば「石油(中東)依存からの脱却」となります。
1973年の石油危機までは、エネルギー自給率はきわめて低く、アラブ諸国からの石油にほとんど頼っていたという状況は日本とほぼ同じでした。しかし、1990年にはエネルギー自給率52.4%となり、日本とは違った道を選んだことがよく分かります。そして今では自給率は100%を超え、余剰電力で水素を輸出してドイツではフランス製の水素電車を走らせる計画につながっています。
石油危機直後には北海油田開発に成功し自給率を少し下げることができましたが、化石燃料依存には変わりないので、
・エネルギー効率を高める
・エネルギー需要を抑制する
・石油、原子力以外のエネルギー源を開発する
という選択をしました。それが「エネルギー税」の新設(1980年)でした。これは「課題を制度で解決」するということです――「心がけ」でできることはそんなにもなく、根本的な解決にはなりません、システム構築こそが重要なのです。これは、石油と石油製品の価格を高く維持する、すなわち石油消費を抑制し続けるという政策です。そこでは、再生可能エネルギーによる電力を例外的優遇措(=課税対象から除外)としました。
そして、1984年にはエネルギー税の制度改革を行い、再生可能エネルギーによる電力の余剰を売電できるようにして、民間企業は税金の還付を受けられることになりました。再生可能エネルギーへの優遇措置をすることで、人びとはエネルギー問題を考え理解を深めるようになります。それは国の目標実現のスピード加速とも合致します。また、市民が原発の是非を検討し、1985年には政府も原発のないエネルギー計画を選択し、再生可能エネルギーへのシフトに大きく動き出します。
動きはそこでは止まりません。風力発電事業所と既存電力会社の協定を結び、市民も風力電力発電に参加できるようになります。しかし、風力発電機は半径200m以上の土地は必要で、それでは広い土地を持つ発電事業者しか参加できませんので、次に小規模な土地所有者にも参加できるシステムを作り出します――「市民共同発電方式」の始まりです。土地を出し合って運転可能な面積を確保して発電できたら、電気の買い上げ価格が、個人単独の場合は既存電力会社の電気料金の70%だったものを、共同発電の場合は85%としました。また、風力発電機設置のための設備投資の補助率を30%→25%→15%→10%→と順次減らし10年目で廃止するという方針を示すことで<早く参加すると有利>をアピールしました。差別的補助金制度で起業家精神を掘り起こすということに成功しました。
<経済成長=総エネルギー消費量の増大>が一般的な認識でしたが、デンマークでは、1974~1991年(17年間)でGDP40%増、エネルギー消費増加率低下、総消費量横ばいという「エネルギー少消費型経済成長」が実現しました。
風力発電機・技術の輸出をもするようになったデンマークは
・政治的決断
・市民参加
・先行理念と現実的手法
の意味を教えてくれています。
そして今デンマークは
・石油などの化石燃料に頼ることはエネルギー安保上も環境的にも無理がある
・エネルギー政策は政党が変わっても大きな指針は変わらない。もちろんグリーン経済への
移行はコストもかかるが、今やらなければ 将来的にはそれ以上にかかる
・技術力を磨いて市民、政府、産業界の意見を一致させ、エネルギー消費量を減らすことと、
供給システムの2つの側面で競争力を高めたことが成功の要因という風に考えているようです。
さて日本では、今もエネルギーの消費と経済成長が比例するとの考え方が主流のようで、原発も当面は減らすことを考えるどころか増やそうという姿勢のようです。そのために「原発コスト徴収プラン」(原発の建設費を電気料金に上乗せして徴収する案)が画策され始めています。電力会社への支払いは現在では基本料金+使用電気料金+再エネ賦課金ですが、ソコに「原発料金」(再生可能エネルギーの新電力の会社の電気を買っている人にもこの制度は適用されます)が上乗せされるのです――商品を作るための工場の建設費を先にすべての住民から徴収するというようなものです!
3分でわかる!巨額の原発コストをこっそり徴収?RABモデルとは?
7分ダイジェスト【共同記者会見】巨額の原発新増設コストを国民からこっそり徴収? 水面下で検討進む #RABモデル とは?その問題点とは?
をぜひご覧ください。
日本の電力はほぼ不足したことがないことを私たちは実感していますし、次のグラフからもそれが分かります。
最大電力というのはそれだけの電力が必要だったという数値です。日本の発電能力はソレを越えてあったのですが、電力不足になるから原発が要ると聞かされてきました。実は火力・水力の発電をどんどん落としていって原発の必要性を説いてきたのでした。
ウランは利用できるエネルギー換算で石油の数分の一、石炭に比べれば数十分の一しかありません。石油より前にウランが枯渇することになるでしょう。もう一つ原発が抱えている問題を指摘しておきますと、一つの原子炉では300万kWの熱が生み出されますが、そのうちの3分の1しか電気になりません、残りの3分の2は原子炉の冷却のために捨てています。海水を原発内に引き込んで、それを温めて海に戻すことで原子炉の熱を捨てています。1秒間に70トンの海水を引き込んで、その温度を7℃上げ、また海に戻しています。こんなことをしていて自然環境に影響を与えないはずがありません。
日本の電気事業の歴史を振り返ってみると、明治40年には116社でしたが大正14年には738社になり、昭和7年には850社まで増えましたが、第一次世界大戦後には事業者間の合併・吸収が進展し、5大電力(東京電燈、東邦電力、大同電力、宇治川電力、日本電力)に収斂され、昭和13年には戦時体制強化ということで配電事業者統合 412社が9社に統合されました。そして昭和26年には全国を9社に分け、それぞれの地域において民間企業が発送配電を行う体制となりますが、これは今も戦時体制を引きずったまま電気事業が続いているということで、電気事業がいかに国家事業であるかを物語っています。ということは、会社には株主の意向が反映されますが、国家的な事業は国民の意思が反映されるものですから、だれに政権を取らせるのかで政策変更が可能になるハズです。
こうした中で、「水素社会」という言葉が見聞されるようになってきています。どのようにしてそれは可能になるのでしょうか。化石燃料を水素で代替できるようになれば、脱炭素化が可能となります。水素発電の普及には、水素の製造・輸送・供給・利用の連携が必要ですし、新しい技術ですから新たな施設などが必要になります。水素の価格は1立方メートルあたり1000円で、既存燃料の最大12倍(LNGの4倍)で、そのコストの大半は電気代です。水素を作るために電気が必要なのです。その電力源によってグレーとかブルーな水素(天然ガスや石炭・石油を使って作る)とグリーンな水素(再エネを使って作る)に分けられています。またもちろん水素の生成過程で二酸化炭素が排出されます。水素社会とは新しい社会ではなく今と変わらない化学工業社会であり、やはり輸入に頼るのです。
イギリスでは、最後の石炭火力発電所が2024年9月30日に閉鎖され、石炭火力ゼロを達成しました――G7で初めての快挙です。
コスタリカは水力発電が74%、風力発電が16%、そして地熱発電が8%という国ですが、地熱発電の技術は日本のものです。日本の地熱発電潜在力は米国、インドネシアに次ぐ3位ですが、実績は10位あたりのようです。
ここまで見てきたことで分かるのは、私たちはもっとよく考え、何をするべきなのかを選択していく力を付けていく必要がありそうです。エネルギーなしでは暮らしていけないのですから、私たちにとっては最重要課題と言っていいかもしれません。
エネルギーどこから来ているのかというと、その大半は太陽から供給されています。
①毎日即時に届く:太陽光、風・・・
②近い過去に蓄えられた:農作物、家畜・・・
③大昔から蓄えられた:石油、石炭、天然ガス・・・
という風に考えてみると、③は今日までの主たるエネルギーですが有限です――「母(なる大地)の内臓を取り出してはいけない」とネイティブ・アメリカンは言っています。②は主に食物として私たちはエネルギーを得ています。そうなると残るは①ということになります。一応現時点では無限にあってクリーンだとみなして大丈夫なエネルギー源です。③から①への移行が世界的な動向となっているのももっともなことです。再エネから水素を作るというシステム開発や維持に頭やお金を使うよりは、再エネをより多く安く作り出せるようなシステムを確実なものにしていくことの方が安全であり確実ということではないでしょうか。
付記(おまけ)
□何かを検索をするときグーグルを使っていますか、それともチャットGPTですか?
グーグルでは検索に0.3Wh使いますが、チャットGPTでは2.9Whを使います。エネルギー使用量は10倍ほどの差があります。いろいろ便利なのでしょうが・・・
ちなみに、北海道で計画されているラピダス半導体工場では60万kW以上(北海道の全消費電力の10~20%)が要ると言われています。税金を注ぎ込んでの建設の上にAIに電力供給のために原発増設といったことが持ち上がらないことを祈るばかりです。
□でも「やっぱり経済が回らないと」という声は大きいものがあります。経済とは「経世済民」から生まれた言葉です、読んで字のごとく「世をおさめ、民を救う」ということです。お金を軸にする考え方とは次元が違っていて、これを取り戻していく方向に舵を切り替えるときではないでしょうか。
□バイオマス(木質ペレット、パーム油など)発電はカーボンニュートラルかを考えるための動画→ホント?ウソ? バイオマスはカーボンニュートラル?
プロフィール:blue earth green trees SDGs勉強会プロジェクトリーダー。同志社大学法学部政治学科卒業、同大学院アメリカ研究科修了。ニュージーランドが関心の地域。私立中高で英語を教え、その後大学に移って「平和研究」「国際協力論」「NGO/NPO論」などを担当。2008年から6年間開発教育協会(DEAR)代表理事。今はDEAR顧問と関西NGO協議会(KNC)監事。
種を蒔く:#575,569,547,537,522,494,385,383,360,354,349,342,319,310,303,292, 266, 259, 254, 237, 224, 197, 175, 143, 124, 121, 98, 79, 73, 69, 67, 48
【過去のご報告】
2024年4月13日開催:『第17回SDGs勉強会~参加について』のご報告
2023年10月21日開催:「第16回SDGs勉強会~難民について」のご報告
2023年4月15日開催:「第15回SDGs勉強会~貿易ゲームで世界の構造を考える」のご報告
2022年10月22日開催:「第14回SDGs勉強会~沖縄から考える平和」のご報告
2022年10月22日開催:「第13回SDGs勉強会~ファッション・服について考えてみよう」のご報告
2022年10月8日開催:「第12回SDGs勉強会~プラスチックとゴミとリサイクルについて考えてみよう」のご報告
2022年8月13日開催:「第11回SDGs勉強会~国際協力/援助について考えてみようⅡ」のご報告
2022年6月18日開催:「第10回SDGs勉強会~国際協力/援助について考えてみようⅠ」のご報告
2022年4月23日開催:『第9回SDGs勉強会~子どもの権利条約について考える』のご報告
2022年2月26日開催:『第8回SDGs勉強会~豊かな社会にとって大切なこと』のご報告
2021年12月11日開催:『第7回SDGs勉強会~~核(兵器)について』のご報告
2021年10月16日開催:『第6回SDGs勉強会~コンビニについて』のご報告
2021年8月28日開催:『第5回SDGs勉強会~フェアトレードⅡ』のご報告
2021年6月12日開催:『第6回種を蒔く人のお話を聴く会/Listening to Seedfolks〜五ふしの草 榊原一憲さん) 』& 『第4回SDGs勉強会(フェアトレード)』のご報告
2021年2月13日開催:『第4回種を蒔く人のお話を聴く会/Listening to Seedfolks〜登大路総合法律事務所 所長弁護士田中啓義さん』& 『第3回SDGs勉強会』ご報告
2020年12月26日開催:『第3回種を蒔く人のお話を聴く会/ Listening to Seedfolks 〜国連UNHCR協会芳島昭一さん』&『第2回SDGs勉強会』のご報告告
2020年10月17日開催:『第1回種を蒔く人のお話を聴く会 & 第1回SDGs勉強会』のご報告